作品のヒットの理由なてわかるわけがないし、後付ならなんとでも言えます。よって、こういう理由で鬼滅の刃がヒットしたとか、どんなマーケティング上の戦略があったのか、などを述べるつもりはありません。そんなものがわかっているのなら、その分析能力、予測能力をもっと有効に別の方向に使っていることでしょう。
ブームの中心にいた人たちも当然、そんなものがわかっていたはずがありません。統一した方法論があれば、その後も約束されたブームが連発されるはずです。あるいはもしかしたら、連発というのはそもそも無理なのであって、時間をあけて次の仕掛けをしている可能性は否定できませんが。毎回時代背景も前後の文脈も移り変わっていくので、一度何かがヒットしたらその後の市場には作品の影響が残っています。同じ味ばかり続くと飽きられるし、違い過ぎてもマイナスのショックを与えてしまいます。そんなわけで、そこを考えても仕方がないという結論に至ります。
今回は単純に、ふと、なぜ鬼滅の刃があの短期間で注目を浴びるようになったのかを自分自身が消費者・視聴者として受け取った情報から振り返っておこうと思います。もちろんアニメ版の話です。
ポイントだと思うのは、短時間に与える研ぎ澄まされて尖った情報力が豊富だという事です。
同じファンタジーの中でも、時代劇系、侍系でのヒットが近年は少なかったのではないでしょうか。特殊能力系か、あるいは異世界転生系のような西洋を舞台としたものが多く続いていました。その中にあって、一定周期で現れる和風の時代劇設定は、新世代には新鮮に映ったことでしょう。令和に変わるタイミングでもあって、時代の文脈にマッチしていたと思います。
その上で、特に印象的な短時間でのインパクトが絶大だった点は3つあります。
- 竹
竹を咥えた謎の美少女(和装)はパワーワード過ぎました。これはもう発明でしょう。禰豆子単体でアートであると定義できます。 - 説教
冨岡義勇の「生殺与奪の権を他人に握らせるな」や、鱗滝左近次の「判断が遅い」は、衝撃が大きく、TikTok のリップシンクやモノマネにも使われて、TikTok の本来の存在意義につながっていました。 - 歌
あと何よりもあの歌はやっぱり最強でした。狙ってできるものではありません。曲も歌い手も作品背景も、すべてが絡み合った絶妙な作品になっていました。アニメとの相乗効果が半端なく高かったと言えます。
なぜ短時間で与えるインパクトが重要かと言えば、当然脳の判断を奪うことができるからです。集中力を一点に集めさせ、人々の意識をピンポイントに集約する事で、アテンションの渦を超短期間で獲得します。まさに、全集中。それが、SNS 全盛期の中で必要な戦略です。
狙ってやったわけではないと思いますが、そこにハマっていました。名指しすると、TikTok でバズったことが鍵ではないでしょうか。見る側のコストが劇的に安く、拡散する事で承認欲求を満たすインセンティブが働く状態になりました。投稿するだけ、あるいはそれを拡散するだけで評価が集まり、インフルエンサーになったような気分に浸れる麻薬のような機能になりました。快感のバラマキ政策です。
同様に Twitter でもそれは機能したことでしょう。流れ続けるタイムラインにおいて、全集中一点突破のアテンションは大きな波を起こすきっかけとなります。
逆に YouTube との相性はあまり良くなかったのではないかと思っています。著作権的な問題もありますし、なによりも10分前後という今となっては長尺すぎる枠では、同様の短期集中効果は狙えません。ただ、短期に起きた波を維持し拡大する効果はむしろ YouTube にしかありません。蓄積されて検索結果でも関連キーワードをお仕上げますので、間接的に Google 本体に対する SEO の効果を出し、結果としてそのキーワードを狙った有象無象のサイトが突如大量生産されることに繋がります。つまり、儲かるキーワードとして YouTube 界隈や SEO 至上主義者たちに担がれるのです。
というわけで、インパクトって大事だなという思いを強めました。