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Nvidia は地球をコピーする

かつて Google の Eric Schmidt は、世界のあらゆるデジタル情報をクロールし Index 化するには 300 年かかると語った。それから 30 年が経ち、Google は地球上の情報を収集し、構造化し、順位付けを行い、いまや情報の中心に位置している。
この過程は、人類が世界の知をデジタルに写し取る長い試みのひとつだった。

同じ時期に Facebook は、人間そのものをコピーしてきた。個人の属性や関係性、プライベートな交流の記録までを対象とし、ソーシャルグラフとして人と人との結びつきを可視化した。
Google が「知識の地図」を描いたのに対し、Facebook は「人間関係の地図」を描いたと言える。

AI は、それらの巨大な写し取りの上に花開いた。AI が求めるのは単なるデータ量ではない。蓄積された情報をどのように解析し、知見へ変換できるか、そのプロセスに価値が生まれる。だからこそ、必ずしも先行してデータを持つ者が優位に立つわけではなく、データを理解し活用する能力そのものが競争軸となっている。

では、次の主戦場はどこになるのか。
知識の地図、人間関係の地図に続いて、次に写し取られるものは何か。その答えのひとつとして、いま Nvidia のアプローチが浮かび上がっている。

Nvidia は、地球そのものをコピーしようとしている。それは Digital Twin と呼ぶべきか、Mirror World と呼ぶべきか。いずれにしても、Nvidia のエコシステム上に地球の構造と挙動を再現しようとする試みだ。
物理世界の動きをシミュレーションし、そこにデジタルの法則を重ね合わせる。これまでのインターネット企業が行ってきた情報の写し取りを超え、現実の複製へと踏み込んでいる。

その先にあるのは、完全な地球のデジタルコピー、そしてそれを基盤にした新しい産業エコシステムである。Nvidia が構想する世界では、都市も気候も経済も、すべてがシミュレーション可能な対象となる。
AI はその内部で学び、判断し、再構成を行う。もはや地球を理解するのではなく、地球を再現する段階に入っている。

ただし、もし多様性を尊重し、より多くの可能性を並行して生成するのであれば、必要なのは 1 つの世界ではなく、無数の「世界たち」だろう。ひとつの正解を模倣するのではなく、異なる条件のもとで分岐する複数の「世界線」を作り出す。AI がそれらを比較し、最適解を導くような未来を想像することもできる。そのためには、膨大な計算能力が前提となる。

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雑記

SoftBank は Intel を買収するのか?

以前、疑問に思って考えてみたことがある。その後実際に SoftBank による投資が発表され、明らかな動きがあった。そこで改めて、戦略的投資の発表前に思っていたことを記録として残しておきたい。これによって後に何が起きたのかを比較検証できるようにすることが、個人的な目的だ。

SoftBank による ARM 買収の経緯と現在地

2016 年の ARM 買収は、SoftBank が半導体の川上である設計 IP に軸足を置くという明確な意思表示だった。ARM のライセンスモデルは、中立性と拡張性によってモバイルを起点にプラットフォーム化し、IoT やサーバー、スーパーコンピューティングへと適用範囲を広げてきた。SoftBank はこの中立性を維持すると表明しつつ、IP の結合度を高める方向に舵を切り、サブシステム提供やサーバー向けの踏み込みを強めている。2023 年の再上場を経ても、ARM はグループの最重要資産であり、他の投資と連動する要に位置付けられている。

ARM を核にした次の一手

ARM を単なる IP 供給者に留めず、エコシステム全体の牽引役へ引き上げるために、周辺要素の獲得が続く。Graphcore の取得は AI アクセラレータ領域の足がかりであり、Ampere の買収はサーバー CPU の実働部隊をグループ内に取り込むという意図が読み取れる。ARM の低消費電力設計と、データセンターのスケールアウト潮流が組み合わさると、x86 一辺倒だったサーバー市場に別の最適点が立ち上がる。この構図は、後述する Intel をめぐる思考実験に直結する。

SoftBank と Nvidia の距離

かつて SoftBank は Nvidia の大株主であり、AI ブームの前段で強い関係を築いた。しかし売却で巨大な含み益の伸長機会を逃し、その後は協調と競争が同居する関係に変わった。日本国内の AI インフラや通信での共創は進む一方、グループ内に独自の AI チップの芽をいくつも植える動きは、Nvidia の寡占に揺さぶりをかける戦略とも読める。Nvidia は自ら ARM ベース CPU や NVLink を武器に垂直統合を強化しており、両者は重なり合いながらも、長期的には異なるゴールを見ている。

OpenAI を中核とする AI 投資戦略

OpenAI への巨額コミットメント、Oracle 等とのインフラ共同投資、国内での合弁構想。これらはソフトウェア側の牽引役を自陣営に引き込み、計算能力資源を先回りして確保する狙いの表れだ。AI の覇権はアルゴリズムの巧拙よりも、電力と半導体と資本を束ねる統治能力に収れんしつつある。SoftBank は資金供給者としてだけでなく、設計 IP とデータセンター構造の両端を握ることで、AI のスケールを自身のバランスシートと結びつける回路を描いている。

Intel という仮題

では、Intel はその回路にどう接続し得るか。市場の低迷、事業再編の思惑、製造とプロダクトの切り分けという文脈が重なり、買収や資本参加の観測が繰り返し浮上した。報道ベースでは、ARM が Intel のプロダクト部門に関心を示したが不成立に終わり、AI チップ製造の協業打診も生産能力の要件が合わず頓挫したとされる。公式な買収アプローチが存在したわけではないにせよ、部分取得や提携の可能性を探った痕跡はある。問いは単純だ。SoftBank が Intel を取り込む必然性はどこにあり、現実に通る道はあるのか。

戦略的整合性の検討

ARM は IP 指向で製造を持たない。Intel は製造力と x86 を核に広大な顧客網を抱えるが、モバイルや低消費電力の文脈では遅れをとった。二者を束ねれば、CPU の二大アーキテクチャを横断し、データセンターからエッジまで網羅する設計力と供給力を手にできる。AI インフラの垂直スタックにおいても、CPU と AI アクセラレータ、メモリ、インターコネクト、ファブを内包しうる。この絵柄は理屈としては美しい。さらに CHIPS 法の補助金や先端ファブのアクセスは、外部ファウンドリ偏重の脆弱性を補う魅力がある。

しかし理屈の美しさと実装可能性は別物である。米国が最重要資産と位置付ける Intel を外国資本が握る道は、政治と規制の二重壁に阻まれる。U.S. Steel の前例が示したように、政治判断で覆ることがある。独禁面でも、ARM の中立性とオープンなライセンスに疑念が生じるだけで反発は必至だ。業界各社は ARM を共通基盤と見なしており、特定グループの利益に偏る統合には強く反対するだろう。財務面の負荷、製造事業の運営という経営難度も加わる。よって、フル買収は現実解たり得ない。

実務的な代替路線

フルコントロールが閉ざされるなら、選択肢は分散する。特定事業の資本参加、共同設計、長期製造契約、国内外コンソーシアムの組成。ARM はサブシステム提供と共同最適化で存在感を高め、Ampere や Graphcore は製品を持ち込み、Rapidus や海外ファウンドリと複線的に製造能力を確保する。完全支配ではなく、仕様と資本と電力をつなぐハブとしての振る舞いを強化することが、SoftBank らしい現実解だ。

問題提起の再点検

US スチール型の政治阻止は十分にあり得る。半導体にまたがる越境投資は安全保障や産業政策の射程に入り、議会や労組、州政府の利害が絡む。独禁リスクも顕在だ。ARM の中立性が疑われれば、Apple や Qualcomm、Microsoft、Amazon、Google、さらには Nvidia まで、各国当局に働きかけるだろう。既存プレイヤーとの衝突も避けがたい。Nvidia は CPU と GPU の両輪で自立を強め、Apple は自社 SoC の戦略に直結する ARM の進路を注視している。衝突回避の現実解は、広範なステークホルダーに配当可能なインセンティブ設計と、ライセンスの透明性担保である。

日本政府の動きと接点

SBI によるメモリ構想は、PSMC 案の頓挫を経て SK 陣営との連携模索へと重心を移した。補助金枠組みは維持され、国内にメモリ能力を戻す探索が続く。ここに PFN のような国内 AI ベンチャーが連なると、AI 向けメモリ需要を起点にした生態系が生まれる可能性がある。並行して Rapidus は 2nm ロジックの量産を目指し、Tenstorrent との協業でエッジ AI 需要を取り込もうとしている。SoftBank は出資者として関与し、ARM や Ampere の設計を国内製造に接続する選択肢を持つ。国家の資本と民間の資本が相互補完する構図が、SoftBank にとってもリスク分散と政策整合の手段になる。

NVIDIA や Apple との関係管理

Nvidia とは協調と競合が併走する。国内 AI インフラや 5G 連携では協業しつつ、グループ内の AI チップ育成や ARM の深耕は、長期的に市場の力学を変える可能性がある。Apple については、ARM の中立性とライセンスの安定性が最重要の関心事だ。ARM が特定アーキテクチャや特定顧客に偏る印象を与えれば、関係は一気に冷える。したがって、ソフトウェアツールチェーンの開放性、ロードマップの公開性、差別化と中立性の両立が鍵になる。

それでも残る問い

買収は現実的でないとしても、なぜこの観測が繰り返し浮上するのか。答えは単純で、AI 時代の価値モデルが計算能力資源と電力と資本の連結に移行したからである。CPU の二大陣営、先端ファブ、AI アクセラレータ、メモリ、インターコネクト、クラウド、そして生成 AI プラットフォーム。これらを統べる者が次の 10 年を決める。SoftBank は資本と IP と顧客接点を持つが、決定的に不足するのは製造と電力の専有的アクセスである。だからこそ Intel が視野に入る。しかし視野に入ることと、手に入ることは別である。

結論

仮に SoftBank が Intel を丸ごと手にする道が閉ざされているとしても、分散的な連携で同等の機能を構築する道は残る。重要なのは、どの電力で、どの製造で、どのアーキテクチャを、どの資本構成で束ねるかという設計だ。買収という単発のイベントではなく、制度と資本と技術を通底させる設計力が試されている。数年後に振り返るとき、今日の観測が単なる噂ではなく、計算能力主義の時代における権力の再配置を先取りした思考実験だったと分かるかもしれない。

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OpenAI と AMD の提携にみる AI 時代の計算能力資源価値

生成 AI の拡張は、モデルの新規性ではなく計算能力資源の確保と運用構造で決まる段階に入った。OpenAI と AMD の複数年・複数世代にわたる提携は、その構図を端的に示している。単なる売買契約ではなく、資本・供給・電力・実装のレイヤーを束ね、相互の成長を担保する仕組みによって規模を前提にするゲームへ移行したという理解である。

要求される電力規模予測

提携の骨格はギガワット級の計算能力前提である。初期 1 ギガワット、累計で数ギガワット級という水準は、データセンターの建設と電力調達を分離して語れない規模であり、個別案件ではなく地域電力系統の計画に接続する。ここで重要なのは「ピーク消費電力」だけでなく「継続稼働に耐える供給信頼度」と「排熱処理を含む実効 PUE」である。AI トレーニングはスパイクではなく恒常負荷を前提にしやすく、系統側の安定度と補機の冗長設計がボトルネックになる。

加えて、モデルの進化は「計算当たり電力効率の改善」を相殺するかたちで総電力需要を拡大させる。半導体の世代交代で性能/ワットが伸びても、パラメータ規模やデータ総量の増加、マルチモーダル化による前処理・後段推論の付帯計算が需要を押し上げる。結果として、設備投資の主語はサーバーラックではなく、冷却系を含む土木・電力の領域へ移る。

計算能力市場の潜在的な問題

NVIDIA 支配の市場に対し、AMD の実装選択肢が増えても、光配線、先端 HBM、CoWoS などの製造能力が別のボトルネックとして顕在化する。さらに、ラック当たりの熱密度上昇は空冷から液冷への不可逆な転換を迫り、データセンター立地の制約を強める。結果、資本があっても直ちに計算能力資源へ変換できない転換遅延が発生する。

もうひとつの問題は、地政学的リスクである。国際的な緊張の高まりと輸出規制により、製造と配備のチェーンが分断されると、計画の遅延や再設計が連鎖する。

OpenAI の課題

OpenAI の第一の課題は、指数関数的に増大する計算需要の吸収と平準化である。研究開発・製品化・ API 提供を同時に走らせる構造では、学習クラスタと推論クラスタのキャパシティマネジメントが難しく、モデルの刷新と既存サービスを両立させる計画立案が肝になる。

第二に、単一ベンダー依存の解消である。NVIDIA 依存は供給逼迫と価格弾力性の欠如を生み、交渉余地を狭めた。ゆえに、AMD とのロードマップ共有は最適化余地と調達分散の両面で意味がある。

第三に、資本構造とガバナンスである。外部からの巨額コミットメントを巻き込みつつ、中立性と研究機動性を維持するためには、提携を束ねる契約設計が必要になる。過去の分裂危機を想起させる。資本の出し手が異なる意思決定を持ち込み始めると、研究アジェンダの整合が課題化する。

AMD の課題

AMD にとってのボトルネックは、製造キャパシティとソフトウェアエコシステムである。最新設計の製品では一定の競争力を持ち得るが、PyTorch・CUDA 生態系に匹敵する開発者体験を提供するには、ランタイム、コンパイラ、カーネル、分散訓練のツールチェーンの発展が不可欠となる。さらに、HBM 供給、パッケージングの歩留まり、冷却技術への対応といったハードの実装面が、納期と安定稼働の鍵を握る。

もうひとつは OpenAI と生み出す成果を市場全体に展開できるかどうかである。OpenAI と単一のプロジェクト・単一の製品として閉じずに一般化し、他の市場へ展開するパスを早期に用意できるか。単発大型案件の依存度が逆にリスクになることもある。

提携の戦略的意図

この提携の意図は単純である。OpenAI は計算能力資源の確保と多様化、AMD は市場からの信頼と需要の同時獲得である。

だが構造的にはもう一段ある。第一に、モデル・データ・計算・資本をひとつの流れの中に組み込むこと。第二に、GPU の設計開発と供給のサイクルを加速させること。第三に、電力と立地のポートフォリオを早期に押さえること。すなわち、両社の課題をロードマップに前倒しで埋め込み、供給と資本の不確実性を同時に下げる設計となっている。

提携のスキーム

特徴は相互コミットメントを強く担保する条項設計である。大口引取と設備立ち上げのマイルストーンを資本的リターンに結びつけ、ハードウェア側の成功が顧客側の経済的利益に反映されるように組む。供給側から見れば、数量確度と価格の下支えが得られ、製造投資の意思決定が容易になる。需要側から見れば、技術仕様への影響力を強め、ワークロード適合性を高められる。金融的には、キャッシュフローの急激な上下を慣らす機能も果たす。

NVIDIA との違い

NVIDIA の大型合意が「供給側から需要側へ資本を入れ、需要側がその資金で供給側を買う」循環であったのに対し、今回の AMD との設計は「供給側が需要側にエクイティ・オプションを与え、需要側が長期引取で供給の確度を提供する」という対比にある。どちらも相手の成功を自分の利益に直結させるが、資本の流れる向きとガバナンスの効き方が異なる。

NVIDIA 型は供給側の影響力が強く、需要側の自由度は資本条件に縛られる。AMD 型は需要側が将来の株主となる余地を持ち、供給側の技術優先順位に間接的な影響を及ぼしやすい。

計算能力主義

AI 時代の価値モデルは、最終的に「誰がどれだけの計算能力資源を、どの電力で、どの効率で、どのガバナンスで回せるか」に集約する。Microsoft、NVIDIA、AMD、Oracle との一連の提携は、その前提でつながっている。計算能力資源は通貨であり、通路であり、主権の基礎である。電力の出自、法域、倫理方針、モデルの学習経路までを含めて「どの計算能力空間を選ぶか」という選択が、企業戦略であり、社会の制度設計へと波及する。

この観点では、クラウド事業者との長期コミットメント、専用電源・冷却技術・用地の同時確保、そしてサプライチェーンを巻き込む金融の設計が一体化した案件こそが競争力の源泉である。単価や FLOPS の比較だけでは、もはや優位を測れない。

計算機市場・技術ロードマップへの影響

今後も増え続ける計算能力資源への需要に対応するために、何を成すべきなのかは明確だ。より大きなメモリ空間、より低レイテンシ、より高効率の冷却、より高いエネルギー効率。結果、GPU は引き続き進化していく定めにある。HBM 容量と帯域の段階的増加、GPU 間相互接続技術の進化、ストレージやデータローディングの最適化。改善の余地を挙げればきりがない。

ソフトウェア面では、PyTorch・JAX の後方互換を保ったまま、AMD 側のコンパイラ・ランタイムがどれだけ摩擦ゼロに近づけるか。この先、市場を拡大する過程で、実運用からのフィードバックを最短経路でアーキテクチャへ返すことが、世代間の性能の差を決める。ハードが供給されても、ソフトウェアレベルでの最適化が遅れれば、市場価値に転化しない。

また、電力・冷却・立地は技術ロードマップの一部として扱うべきである。液浸を前提にしたレイアウト、廃熱回収と地域熱供給の統合、再エネと蓄電のハイブリッド、需要に応じたスケジューリング。この「ワットとビット」の連携を前提とした設計が、計算能力資源の真の単価を決める。チップの微細化だけでは、次の 10 年は生き残れない。

結語

OpenAI と AMD の提携は、計算能力資源を軸に資本・供給・電力・ソフトウェアを一体で設計する時代の到来を示した。計算能力主義の下では、勝敗は単一の製品ではなく、生態系の成熟度で決まる。市場の速度はさらに上がるだろうが、基礎は単純である。どの電力で、どの場所で、どのチップで、どのコードを、どのガバナンスで回すか。それを早く、深く、広く設計した陣営が、次の世代の地図を描く。

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インフラを生成する

Jansen が言っていた。

プログラムを設計してコードを書いて、問題を解決するという力任せの時代は終わると。これからは、問題を共有し、解決策を生成する時代になると。

生成 AI は、何かを生み出す。
テキストをつくる。画像をつくる。コードをつくる。
でも、それはすなわち、汎用的であり、やがてはインフラをつくる側にもなりうると、最近は実感している。

これまでは、ざっくりと言えば次のようなサイクルを経てきた。

  1. 人間が都市や社会の構造を設計し、営む
  2. その結果として生まれた産業が、ハードウェアとソフトウェアを開発する
  3. 収集したデータを流し込む
  4. プロトコルや法律や経済の制度が確立される
  5. そして AI が稼働する

でもこれからは、AI 主導で次のサイクルに入る。
そのとき、「1」はもはや人間の認知の範囲でどうにかできるものではなくなる。AI はミラーワールド、あるいは仮想空間の中で都市を生成し、様々な社会設計を検証することだろう。税制度や輸送ネットワーク、教育政策や金融政策なんかも、シミュレーションするだろう。そして恐らくは、あるいは願わくば、成果が最も広く公共の利益に貢献する施策が採用され、実装されるのだろう。

そんな時代がもう目の前に来ている。

半導体を AI が設計する時代、ロボットを AI がミラーワールドで設計する時代。そしてその先にある、社会構造を生成する時代は、すでに幕を開けているのかもしれない。

「生成」という言葉には、即興的で非構造的なイメージもある。でも実際には、生成 AI は構造を発明する能力に長けている。自然界がそうであったように、一見すると無秩序に見える成果の連続性を俯瞰して観測したとき、そこには一貫した論理が見出されるのだろう。
それを人間が認知できるかどうかは、わからない。

行政の中にもこうしたテクノロジーや、それを受け入れる体制が入れば、従来とは違うタイプの政策づくりが可能になる。データがあるかどうかではなく、エビデンスというレベルの評価基準でもない。検証した結果が実装される社会が誕生する。
そのときは、ゲームのルールが変わる時であり、民主主義の在り方も、変わらざるをえないのかもしれない。

都市をつくる。制度をつくる。ライフラインをつくる。
これまで人間にしかできないと思われていたそれらの行為が、当たり前のように人間よりも質の高い最大の成果に結びつく──そんな時代が、検証を経て実装される段階に来ている。

その時の「正しさ」や「最大の幸福」や「もっとも良い結果」の判断基準は、誰が、どうやって定めることになるのだろうか。人間には、その判断を下すことすら、もうできないのかもしれない。

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雑記

Nvidia のつくるミラーワールドとモノづくりに訪れる変化

最近の Nvidia の発表を見ていて感じたのは、もう完全に「ものづくり」の世界が変わりつつあるということだ。

いままで、製造業の PDCA は物理空間でしか回せなかった。でも、今は違う。仮想空間にもうひとつの現実をつくって、そこでものづくりをシミュレーションできる時代になった。しかも、それが AI によって自律的に回る。

Nvidia は、この仮想空間、ミラーワールドを主戦場にするつもりなのだろう。Omniverse や digital twin という言葉もあるが、要するに「現実のコピーを仮想世界に持ち込む」ことで、すべての産業の基盤を異世界に移転し、Nvidia 在りきのミラーワルドとして成り立たせる考えだ。
この世界では、試作や設計がリアルタイムに、かつ極端な精度で繰り返される。自動運転車のシミュレーション、工場ラインの最適化、建築物の構造解析、創薬、医学研究、教育──すべてがデジタル空間で「仮想的に」完結する。

つまり、「モノをつくる」ということの意味が変わってきている。設計と試作がリアル空間に出てくる前に、仮想空間の中で何万回も回され、AI によって最適化される。
PDCA を仮想世界で高速に回し、ほぼ完成形のまま物理世界に出す。そういうサイクルに突入している。

これは、ただの CG や可視化の話ではなく、「デジタル上でしか存在しないが、現実の行動に影響を及ぼす構造体」の話だ。ミラーワールドは、シミュレーションの精度が一定の閾値を超えたことで、ついに社会実装のステージに入った。

この時代においては、日本の役割は、これまで以上に重要になると思っている。
仮想空間でいくら設計ができたとしても、それを正確に現実化できる場所が必要になる。誤差が致命的になる世界では、製造精度と品質管理が決定的な差を生む。それを担えるのは、やっぱり日本のものづくりだと思う。

仮想で生まれ、現実に降りてくる。そのインターフェイスとしての「製造」は、今後ますます意味を持つはずだ。

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