ある経営者に教えていただいたことです。いくつもの上場会社を経営する方からお聞きしたことで、大変に説得力がありました。日本のインターネット企業が、なぜどこも足並みを揃えたかの様に多面的に事業展開をするのか、その理由についてです。
日本のインターネット企業の大手をどこでも良いので思い出してみてください。そこはきっと、金融からインフラ、ショッピングに決済、広告にゲームと、思いつく限り大抵のインターネット事業を営んでいるはずです。一方、アメリカのインターネット企業はどうでしょうか。確かに大きな傘の元で多面的な事業展開をしていますが、未だに極めて限られた分野に尖っています。Amazon はやはり圧倒的に EC、オンラインショッピングの事業です。AWS でインフラ事業のシェアも増加していますが、それでも売上比率は EC が大半を占めています。Facebook は広告しかやっていないというほど、収益モデル的には広告事業に依存しています。広告を拡大するために、ゲームやメッセージングなども傘下に収めてはいますが、やっていることは広告という言葉で要約できます。
このように、アメリカ企業は立ち上がりの段階から、世界規模になって市場を支配するに至るまで、専門性を生かした特化を続けています。日本のインターネット企業がどこも、インターネットという範囲の中であればやりたい放題なのとは大違いです。
一見すると、この戦略は日本企業の悪い部分、弱い部分のように見えてしまいます。ところが、実際のところは日本企業は限られた日本市場の中で、ある程度の市場占有率を維持していることがわかります。オンラインショッピングでもポータルサイトでもホスティングでもメッセージングでも、多面展開してリソースを分散してしまっているはずの日本企業が、日本国内を制しています。
そこには、市場規模の違いという戦略上の前提の違いがあります。アメリカは一国だけでも十分な市場規模を持つ上に、英語圏という切り口で広められる種類の事業であれば、世界の大半の地域を事業対象にできます。地理的成約から切り離されたインターネット市場というグローバルマップの中では、英語圏の国が大半になります。
僕がはじめて事業展開上の戦略で英語圏に進出した十数年前、世界展開という言葉が英語圏の社内メンバーに通じなかったことを思い出します。わざわざ国内国外という分け方をして考えていたのは、日本人の自分だけだったというオチでした。物理的制約が効かないタイプの事業では、そこに国境ははじめからありません。
文化的国境は依然として残りますが、それについてはまた別の機会に書きます。
逆に言えば、アメリカの中の人たちは、自分たちがいる世界がイコール全世界だという誤解をしているので、ナチュラルな傲慢さにまみれており、思いがけない失敗をすることもあります。そしてなにより、常に世界中から競合がやってくる状況にさらされており、チャンスの大きさに比例して倒すべき敵の数も多くなっているのです。だから、一点突破で最速で駆け抜ける必要性があります。
日本企業は、英語圏、主にアメリカから来る企業やサービスに対抗するためには、日本市場という参入障壁で守られた環境の中で数を集めなければなりません。ですが、いくら数を集めても、せいぜい日本のインターネット人口が上限です。内需だけでまかなえる規模は限られます。それに、文化的に特異であることが足かせとなっており、そのまま簡単には他言語圏へ展開することができません。日本国内で培ったユーザーベースとの連続性が失われてしまいます。
かといってそのままで満足していたら、ある日英語圏の優秀なサービスが日本語化して市場をさらっていくことになります。SNS やソーシャルゲームの歴史を思い出せば納得できます。
結果的に、日本で特定の市場を獲った会社は、その市場を世界展開するのではなく、隣の市場でも一位を獲りに行くわけです。ひとつの安定した収益モデルを獲得し、次にそこからのシナジーを期待できる分野でも安定した収益モデルをつくり、それを繰り返すことで何本もの強い柱をつくるのです。できる限り、競合のスキを突き参入障壁の内側で素早く横展開を続けることで、はじめて安定性を生み出す戦略です。
最近であれば、LINE と Yahoo! Japan の統合の背景を考える時にも、この競争戦略が効いていると見えます。大変学び多い知恵に触れることができ、今でも感謝しています。
「多面展開する日本企業と一点集中するアメリカ企業の前提の違い」への1件の返信
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