Stablecoin の今後を考えていて、どうしても CBDC の展望も気になってきました。
正直これまでは、CBDC には関心が持てず、あまり深く考えたことはありませんでした。やりたければどうぞやってください、という感じでした。CBDC という略語からして全然覚えられないし、興味が持てず愛が無いわけです。
それは今も変わっていないのですが、Stablecoin が正統に発展できるかどうかの瀬戸際にある今、両者の立ち位置や関係性を整理して認識しておくことは必要ではないかと考えるようになってきたのです。
Tether 社のような民間のドルペグ通貨発行会社からすると、CBDC を国家が主体的に進めることは民業の圧迫に映るはずです。強い大きな政府がやることであって、自由化、民営化の流れの中では果たして国家・政府がやる事として正しい事なのかと考えずにはいられません。日本でのかつての民間銀行とゆうちょとの関係を思い出します。
一方で、いくら民間に委ねていくべきだという方針を掲げている国家・政府であったとしても、通貨発行権を権力の及ばない場所でもたれてしまう事には強い抵抗があることはわかります。金融政策にも影響するし、好き放題競に争原理に任せてしまうことは無責任と考える見方もあります。しかもかつて構想された Libra のように、FAANG(GAFA)レベルの企業が決済通過の開発に本腰を入れた場合、それは超国家の誕生を意味してしまいます。国家をはるかに超えた優秀な組織が誕生することになり、パワーバランスも崩れる事でしょう。大企業がそのまま国家に置き換わりかねません。それを良しとしないのは当然でしょう。
ここに矛盾が生まれているように思います。政府の立場では、自国で管理できる自国通貨を相対的に強くしたいわけで、超国家が誕生してしまうとパイの奪い合いが起こり、自国通貨は弱まります。価値が流出しやすくなり、監視の目も行き届かなくなります。
だから国家・政府の立場としては、CBDC を主体的に発行管理して、自国通貨の優位性を維持したまま DX により経済規模を拡大したいと考えるでしょう。中央集権の利点を活かして、民間の Stablecoin よりも利便性が高く、信用が高いものを提供できるはずです。利便性というのは総合的なユーザー体験の観点での話です。国家主導であれば、選択肢を少なくして導入のハードルが低くしたりすることはできるため、幅広いユーザー層にとって利便性は高くなります。そうやって DX を進め関連する他国の経済圏をも取り込んで、国益を最大化していく戦略が考えられます。
と、考えながら思いましたが、この戦い方ができるのはアメリカと中国だけでしょう。少なくとも現時点では。民間でも、この2カ国の企業にしかできないと思っています。日本企業では、顧客規模も信用の基礎となる企業価値も、技術的多様性も足りていません。だからこそきっと日本では国が民間に対してもっとがんばれと応援するスタンスなのでしょう。部分的にでも国家の役割を奪っていく企業が誕生することは想像できていないのでしょうし、脅威に感じる素振りもありません。加えて仮想通貨売買取引に関してだけは脅威があったので、いち早く全滅させたわけで。その掌返しの速さを知っているため、今更誰がリスクを取って挑戦したいと考えるのだろうと気にはなっています。
日本が CBDC を作ったら、きっと個人間送金が可能な Suica ができるのでしょうね。