先に結論を言えば、圧倒的に不要なものと考えています。前世紀の遺物です。きっと後世の人類は、紙切れに書き込まれた名前を見て、何かのおまじないだと信じ込むことでしょう。もしそれが物理的に残っていれば、ですが。
時代はエコ全盛期の到来を告げており、まさに新時代の幕開けと呼べる状況です。大手企業はこぞって SDGs を掲げているわけですが、それでも紙を配る行為はなくなっていません。なぜなのでしょうか。
もちろん、プラスチックと違って、名刺の紙は再生紙を使う場合も多く、環境負荷は比較的低いという理由があるのかもしれません。それでも、不必要に資源をばらまいていることには違いがありません。無くすことが不可能ではないものであれば、そして無くしても致命的な影響が出ないものであれば、どんどん廃止していくべきでしょう。
ましてや絶賛コロナ禍です。至近距離から手渡しでものを受け取ることに抵抗を感じる人も増えてきたことでしょう。潔癖症でなくても、すでに人々はウイルスがどのように広まるのかを認識してしまっており、嫌でも感染症の事が頭をよぎってしまいます。これは不可逆な変化で、認識を捨てることはできません。人との距離を開け、会食を避け、マスクと消毒で防御すれば、風邪を引くことが無くなったわけです。たとえ新型コロナウイルスのワクチンが浸透したとしても、手渡しは気持ちの良いものではなくなりつつあります。これまでそれが礼儀でありマナーだったのかもしれませんが、そういった後付のルールは生命維持の本能の前にはいとも簡単に崩れ去ります。
リモート会議が一気に浸透したことも影響してきます。直接あって紙を渡す以外に、必要な情報の交換をする方法があることを多くのビジネスパーソンが体験しました。紙を使う必要性はどこにあるのでしょうか。リモート会議であれば、画面に QR コードを表示しておくのが一番都合が良いはずです。顔の隣に、テレビのテロップのように、常に連絡先情報などが記載されていればよいわけです。
そもそも日本以外の地域では、そこまで重要視されてこなかった文化です。連絡先を聞く必要がある場合に限り、別れ際に思い出したかのようにポケットの中や財布の隙間から引っ張り出した紙切れを投げて渡すのが、いわゆる名刺の交換行為としてメジャーだと僕は認識しています。ちなみに欧米の場合は、わりと紙質にはこだわる文化圏が多いようで、分厚いしっかりしたものがい多い印象です。渡し方より、渡す物自体に重きをおいているのでしょう。日本の名刺はサイズ的に大きい割に、紙が薄く、情報がチラシみたいに無造作に詰め込まれた印象です。
日本に来た時外国人が、オレは知ってるぞ本で読んだんだって感じで、両手で名刺を渡しながら頭を下げるシーンをたまに見かけますが、すでに名刺交換というのはそれぐらい象徴的な謎の儀式と思われているのでしょう。
僕はこれまで、Moo で一枚一枚色の違う名刺を作っていました。どの色がいいですか?とか言いながら渡すとウケが良かったです。でも、もう何年も印刷を追加していません。この2年ほどは名刺交換なんて発生してこなかったですし、この先も想像できません。もともと名刺交換をあまりしないように心がけていたこともあって、以前から QR コード名刺を自作していました。iPhone の待ち受け画面に、連絡先情報を記載した URL に飛ぶ QR コードを表示しておく方法です。これであれば、一発で情報開示ができます。プロフィールと、各種メッセージングアプリのアカウントへのリンクが掲載されているページを置いておけば、受け取り手の負担も軽減できます。
本来必要なのは、情報の方であって、媒体の方ではありません。ビジネスの大切な儀式として、名刺交換はこれからも存続する習慣になるかもしれませんし、丁寧にやる人が減ったからこそ優位性を発揮していく行為に成り上がるかもしれません。それでも何度考えてみても、わざわざ紙で受け取った情報をスキャンして OCR するとか、非効率にもほどがあります。相手にも失礼です。
キャッシュレス化と同様に、ペーパーレス化もすすめるべきではないでしょうか。