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もう一度 Tron を考えたい

Tron は今こそ必要なのではないか。

これまで正面から向き合ってこなかったからこそ、あえて歴史と設計思想を振り返ってみると、やはり現在の要請に合致する部分が多いと感じる。可能性の核は当初から一貫しており、いま再評価の射程に入っている。

背景

Tron は「見えない場所で社会を支える計算」を前提に設計された。

モバイルやクラウドが一般化する以前から、分散協調を前提に機器が相互連携する世界像を描き、オープンなエコシステム設計を早くから実装してきた。表層の人間用 OS 市場での成功は限定的でも、基盤側での採用は静かに広がり続けた。

評価を難しくしてきたのは、その成功が裏方で積み上がっていた事実に尽きる。可視化されにくい領域で「止まらない」を支えた結果、語られにくかっただけである。
見えない所で効く設計をどう語るかという課題は、今もなお戦略の中心にある。

なぜいま再評価なのか

計算能力が社会の基盤へ沈む速度が上がっている。

家庭の電化製品から産業機械、モビリティ、都市インフラまで、現場に近いエッジで確実に動き続ける小さな OS が求められている。
Tron の核はリアルタイム性と軽量性であり、OS を目的ではなく部品として扱い、装置全体の信頼性を底上げする態度が一貫している。

クラウドではなく現場の内側で、リアルタイムかつ安全に制御するという要請は、Tron が最初から向き合ってきた領域である。時代がようやく追いついたという感覚がある一方で、更新可能性や長寿命運用という今日的な要件とも自然に接続できる。

もうひとつはオープンの意味の変化である。ライセンス料や交渉コストを取り除き、仕様の互換を公共の約束にする態度は、分断しがちな IoT の現場を束ねる実務解になり得る。国際標準に準拠したオープンな国産選択肢があることは、供給網の多様性という観点でも意味が大きい。

現在の強み

Tron 系の強みは、現場で壊れないことに尽きる。
自動車の ECU、産業機械、通信設備、家電の制御など、止まることが許されない領域に長く採用されてきた。軽量であるがゆえにコストと電力の制約に強く、長寿命を前提とした保守設計にも向く。

オープンアーキテクチャは技術にとどまらない。ライセンス交渉やベンダーロックインのコストを抑え、組織の意思決定を前に進める効果がある。複数企業や教育機関が扱いやすいことは、そのまま人材供給の安定にもつながり、導入と継続運用のリスクを総合的に下げる。

見えている課題

越えるべき壁も明確である。

第一に認知である。裏方での成功は可視化されにくく、英語圏で厚い情報と支援体制を持つ競合に対し、海外市場で不利になりやすい。採用を促すには、ドキュメントとサポート、事例の開示、開発コミュニティの動線を整える必要がある。

第二に、エコシステム全体での戦い方である。OS 単体の優位だけでは市場は動かない。クラウド連携、セキュリティ更新、開発ツール、検証環境、量産サポートまでを「選びやすい形」で提示できるかが鍵になる。更新可能性を前提に据えた運用モデルの明文化も不可欠である。

展望と再配置

Tron は AIoT 時代のエッジ標準 OS 候補として再配置できる。クラウドに大規模処理を委ねつつ、現場の近くで確実な制御と前処理を担う役割は増え続ける。軽量 OS の強みを保ちながら、国際標準、英語圏の情報、商用サポート、教育導線の四点を整えるだけでも、見える景色は変わる。

Tron をもう一度考えることは、国産かどうかという感傷の回収ではない。
長寿命の現場で、更新可能なインフラをどう設計するかという実務の再確認である。見えない所で効く設計と、見える所で伝わる設計を両立できれば、このプロジェクトはまだ伸びる。
必要なのは、過去の物語ではなく、次の 10 年を見据えた配置である。

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コンテンツ配信プラットフォームの課題と可能性

コンテンツ配信プラットーフォームは、移り変わりながらも常にインターネットに無数の意見を引き込んでいます。
個人的には思うところがありますが、日本では Note が話題となっています。英語圏では、WordPress や Medium が引き続き使われています。また、掲示板形式というかみんなが自由に書き込みをするプラットフォームとしては、日本では 2ch/5ch が失速して Twitter に統合され、英語圏では引き続き Reddit も健在です。
ブロックチェーンの要素を加えたものとしては、Steemit が元祖でした。

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GameStop で幕を開けた金融の分散化時代に生き残るための決意

これもひとつの DeFi の形態

DeFi という言葉が好きです。そのコンセプトが好きです。

それは、生き残りをかけた壮絶な戦いだからです。平凡な日々の中、突如として開催されたサバイバルゲームだからです。参加するのもしないのも自由。しかしいずれ、事実上すべての人々(とプログラムされ学習し続けるソフトウェア)が参加を強制されるゲームになると、個人的には思っています。

2020年、仮想通貨の分野は大きく動きました。前進しました。決済や、様々なモデルのトークンを利用した社会実験だけではなく、資産運用も含めた環境が急激に加速したからです。その背景にある DeFi についてはまた別の機会にじっくり考えるとして、今回は、今後の金融の歴史に残るかもしれない事件と、そのきっかけや背景について振り返り、記録として残すことにしました。仮想通貨はもちろん、金融とかにあまり詳しくない人、これまで興味を持っていなかった人に伝えられたらと思い、書いています。

今この瞬間に注視すべきは、この数週間世の中を賑わせている GameStop と、その起点となった株式売買アプリ Robinhood、そしてそれをきっかけに展開されている様々な議論です。もちろん、Reddit や各種 SNS の存在感についても考えるべきことがあります。DeFi とは全く異なる既存の中央集権的構造の中で起こっている事件ですが、流れの向かう先には DeFi が見えるため、これもひとつの DeFi であると僕は思います。

まずは、個人投資家がつながって暴徒化した事件の概要から始めます。

乱暴で短い説明(要するに版)

大まかな経緯

  • ゲームソフト屋さん(GameStop)の株価が急騰
  • それはもうありえないほどの暴騰
  • きっかけはネットの書き込み
  • 背景には株取引を本業とするファンドとの駆け引きがあった
  • 個人投資家の集団とファンドが株価を上げたり下げたり攻防
  • 結果としてファンドが大損をした
  • 迷える個人投資家の集団が勝利?
  • いやむしろこれで戦いの火蓋は切って落とされた!
  • 政治も巻き込み金融市場のあり方について議論が活発化
  • 株式市場の混乱は仮想通貨にも波及

どんな駆け引きがあったのか

  • GameStop という会社の株にファンドが注目した
  • GameStop の株価が下落するとファンドは考えた
  • 予想通り下落したら大儲けできるように空売りをしていた
  • それはもうありえないほど空売りしていた
  • ということは逆に株価が上昇すればファンドは大損をする
  • ネットの書き込みでこの状況が大量の個人に知られた
  • 書き込みを見た個人が群となって大量に買って価格を上昇させた
  • 株価が上昇してファンドは大損をした

単純化しますが、重要なことなので補足を入れいます。

空売りしている=持っていない株を持っている人から借りて売ってしまい、株価が下落したときにちゃんと現物を買い戻して貸してくれた人に返す、という仕組みです。つまり、ファンドが空売りしている=株価が下落したらファンドは儲ける、ということになります。大量に空売りしているということは、このまま下落していけばファンドは大きく儲かりますが、予想に反して株価が上昇してしまったら、ファンドは借りて売ってしまったときよりも高い値段で買い戻す必要が発生し、大きく損をします。

もう少しちゃんとした説明

アメリカのゲームショップ、GameStop の株価が急騰しました。その上昇幅はとんでもなく、チャートはこの様になりました。1年間で見れば、2021年初めからの異常がわかります。

GameStop がすごい会社でなにかイノベーションを起こしたとか、そういう本質的な価値の上昇がこの短期間に起こったわけではありません。特に変わったところのない、小売店です。将来性については、むしろ疑問がでるような、先行き不透明な業種です。そんな会社の株に対して、個人投資家の買いが殺到したことで、株価は上昇したのです。

前提として、Robinhood の利用者拡大がありました。Robinhood とは、個人向けの株の売買アプリです。このアプリは、個人投資家に株式の売買機能を提供するものです。アメリカの株式市場が好調に推移していたこともあり、コロナ禍でリモートワークになって時間が余った人たちや、給付金等で現金を手にした人たちからの関心を集めることに成功していました。

Robinhood で株式売買をする人たちの中には、情報収集、情報交換のために、Reddit や Discord を使う人たちがおり、常日頃から次の投資対象について目を光らせていたのです。

そんな中、今回の株価急騰につながるきっかけが起こりました。GameStop 株が、ヘッジファンドによって大量に空売りされているという情報が、Reddit を中心に拡散しました。この情報は格好のネタとなり、瞬間的に大きな波となりました。古き良き日本の伝統的な言い回しにすれば、2ch(5ch)で発信された情報が拡散され、祭となったのです。

ヘッジファンドの空売りに対抗して株価を押し上げ、利益を手にしようする人たち。ヘッジファンドに大損をさせてやろうという祭好き。ヘッジファンドやウォールストリートに対して不満や怒りを抱いていた人たち。そういった大量の個人投資家が押し寄せる展開になるのに、時間はかかりませんでした。

発掘された歴史的経緯

こちらの Tweet によれば、このストーリーは2019年から始まっていたそうです。

その頃から、なぜか GameStop の株を持ち続けていた人がおり、定期的に状況を発信していたそうです。気になって調べたところ、滅びゆくと思われていた業界の会社なのに、実際の財務状況は悪くなく、割安の状態であったそうです。さらに興味深い情報が判明します。GameStop 株のうち、流動的になっているのは全体から見れば25%以下と少ないのですが、流動株のおよそ300-500%が、空売りされていたそうです。このまま GameStop が倒産に向かえば、ヘッジファンドは莫大な利益を生み出します。一方でその逆に株価が動けば?
つまり、その事態を期待した人物が GameStop 株を持って、情報を出していたのです。

それから1年が経過して、この事態に多くの人が気づくことになります。それが、Reddit での情報拡散によって起こりました。Reddit 民が連動し、Robinhood で暴れたのです。爆買です。

結果的に、ヘッジファンドは巨額の損失を出すに至ります。空売りしていたヘッジファンドは、価格の上昇によって大損をするためです。損切りのために高い値段で買い戻せば、さらに価格は上昇し、ヘッジファンドにとって状況は悪化します。

終わらない戦い

このようにして民衆は、企業の没落に賭けて利益を貪るヘッジファンドに反旗を翻したのであった。めでたしめでたし。というわけではなく、この激闘はまだいまも形を変えて続いています。

まず、ターゲットとなったのは GameStop だけではありません。他にも、ヘッジファンドが空売りをしかけていた案件は多くあり、それらも次々と似たような事態に発展しています。

この一連の動きは、個人投資家のサイドにも大きなリスクが伴います。個人投資家たちの買いの勢いが弱まったり、利確をしてしまう人が続出すると、当然株価は下落方向に進み、ヘッジファンドが儲ける展開になるのです。いつも通りの、ヘッジファンドが大儲け、個人投資家が損をするという構図です。しかし、今回の事例の特徴は、個人投資家皆が、必ずしも大金を投じていたわけではないということです。投資金額が少なくても数が多いため、それぞれの抱えるリスクは限定的でした。そのため、リスク覚悟で悪ノリをして場を盛り上げ、ヘッジファンドを倒すというモンスターハンター形式に発展したのです。

個人による株式売買の敷居が低くなければ、また、個人の情報交換や連絡網が密でなければ、こんなことにはなりえません。

個人投資家たちはもちろん、一攫千金を狙ってはいるでしょう。しかし途中から、ウォールストリートのヘッジファンドを倒すというゲームのような感覚や、あるいは現在の金融市場に対する不信感の表明としての買いなどが発生したのも、興味深い事です。(まるでガバナンストークンみたいです。この話は長くなりそうなのでまた機会があれば。)

社会不安や、格差社会の是非を問う人々の思考や議論もまた、戦いの火種となっていきました。

炎上は続く

今回の GameStop 騒動をさらに盛り上げたのは、絶妙なタイミングでの燃料の投下があったからです。個人投資家の群れが売買する主戦場であった Robinhood が、GameStop を含む一部株式の売買を停止したのです。急激な価格変動で投資家のリスクが高まったとしての対応と発表されましたが、買えなくなって困るのはその守るべき個人投資家であって、得をするのはヘッジファンドの方です。急激な売買を手数料無料で支える Robinhood の懐事情も理由ではありますが、それにしてもこの盛り上がりで一番の顧客の期待を裏切ったことに対して、疑問しか残らない対応でした。

この対応に怒った Robinhood ユーザーや市場参加者は、さらに情報を拡散し、対立が激化していきました。集団訴訟の呼びかけや、この不平等に対する政治家の発言などが活発化していったのです。

例えば AOC は、ヘッジファンドが売買できるのに、個人が買えないのはおかしいと Tweet し、多くの人に疑問を投げかけ、さらなる注目を集めました。それに続き多くの政治家が意見を表明しています。

Elon Musk もまた、参戦しています。企業の株価下落に賭けてくるヘッジファンドへの報復でしょうか。

仮想通貨の業界からは、Tron の Justin Sun が参戦していました。

モンハンをやっていたはずが、このあたりでスマブラになっています。

話題の Clubhouse でも、Elon が Robinhood の CEO を詰めるというイベントが起きています。ちなみにこの Clubhouse の Room は、すぐ満員になってしまって僕も入れませんでした。

まだまだネタは尽きず、なんと Robinhood は顧客情報を売っていたということまで判明し、いよいよ矛先が FinTech 企業にも向いてきそうな展開になっています。売買情報が誰に売られているのかを考えれば、Robinhood にとって守るべき本当の顧客が誰だったのかがわかってきますね。無料で売買できる株取引アプリ、なるほどです。

顧客の資産で儲けているという指摘もあり、これからさらなるツッコミが各方面から起こります。

さて、今年予定されていた Robinhood の上場はどうなるのでしょうか?

仮想通貨への影響は?

今回の事件は、急激に情報が拡散し、暴動のように展開した、金融市場に対する民主化運動のようです。それに対抗する既得権益側の対策は、規制強化など含め、今後行われることでしょう。それが正しい方向に向かっているのかどうか、より公平な市場発展へ向かえるのかどうか、我々ひとりひとりの動きにかかっています。今後も金融市場に対する民主化圧力が途絶えないように、参加し続けることに意味があるのです。

直接的には無血の、リモート開催となった暴動は、このようにして起こりました。

そしてそれは、DeFi という生まれたばかりの新しい可能性を推し進め、人々にとっての新たな選択肢を生み出すことになると思っています。

GameStop の激動のさなか、Bitcoin や Ethereum を始めとした仮想通貨の価格は上昇しました。ある種の遊びのような感覚で、いくつかの通貨は暴騰しました。Tron や Dogecoin なんかは、わかりやすい展開です。

Doge はこの段階から明らかに動きが出ていました。

Tron は Justin が GameStop を応援する過程でプロモーションされています。

それらが良いか悪いかはここで判断し言及すべき性質のものではありませんが、良くも悪くも大きなうねりが起こっていることに間違いはありません。正直、目が話せなません。

スマブラをやっていたとおもっていたのですが、いつのまにかもうフォートナイトになっていたのです。生き残りをかけた戦いになっています。

分散化金融、DeFi、分散化社会、仮想通貨(暗号資産)。呼び方はいろいろとあるでしょうが、要するに、中央集権的な社会構造の中で、誰かに盲目的に従って守られる時代は終わりを告げました。自分が誰の言うことを信じ、誰に従うのか。それが試される過酷な時代の幕開けです。こんな過酷な環境を誰もが望んでいるわけはありませんが、冒頭に述べたように、半ば強制的に社会がそちらへ移行しています。インターネットがやって来て、広まっていき、一時的に大きな格差が生まれ、そこから広く浸透していく。もうインターネットが無かった時代には戻れない。ちょうどそんな感じです。

こんなものを望んでいたわけではない。そう思いながらも、生き抜くために立ち上がり、戦わねば道は開かれません。情報を幅広い視点で集め、精査していくことから出直します。

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