会社はバンド
スタートアップはバンドです。
今から10年くらい前、自分の会社にある“レジェンド”がアドバイザーとして入ってくれました。とあるソフトウェアを作った博士で、非常に有名な人でした。当時、リタイア後のキャリアとして、若いスタートアップを育てたいという希望をお持ちだったため、ジョインしてくれました。
アドバイザーとして入ってくれたものの、事あるごとに考え方の古さを感じ、ミーティングの度に自分はイライラしていました。自分はまだ良かったのですが、エンジニアからも不満が出始めてしまいました。
あの人が言っていることは正論だけれど、全くいまの開発指向を分かっていない。昔のやり方だから全然合わない。
と、文化の違いがすぐに表れました。
レジェンドは言った
パフォーマンスがよくない。予定よりも遅れている。仕様設計をちゃんとやりましょう。コードを何行書いたのか。そんなやり方でやっていたら絶対にできない。
それは、新しい機能を追加する時に言われたことでした。
コードを何行書いたのか???
さすがに、ちょっと我慢できませんでした。次のミーティングまでに何行書いたかを確認しておきます、とその場を濁して、すぐにリファクタリングをし、コードを10分の1にしました。
次のミーティングで、僕は言いました。
コードなんですが、改善して10分の1になりました。パフォーマンスは倍です。
あと、ロックバンドにモーツァルトはいらないんです。
それが、最後のミーティングになりました。
音楽性はカルチャーを作りバンドを強くする
最近、ある若いエンジニア主導のスタートアップと、採用の話をする機会がありました。カルチャーが大事で、お金を出したからといって良い人が来てくれるというものでもないということで意見は一致しましたが、やはりテックスタートアップで1番重要なことは、バンドであることだと思っています。
バンドだという意味は、カルチャーに合わない人を入れても何にもならないということです。音楽性の違いで絶対に解散することになります。音楽の方向性やジャンルがあります。フォークソングやポップス、ビジュアル系ロックなど様々な音楽、文脈がある中で、全然ジャンルが違う人がそこに入ってしまうと誰も機能しなくなります。ロックバンドをやっている時に「ギター募集。ドラム募集」というのはいいですが、ドラムなら誰でもいいのかというそうではなくて、「ロックミュージックをやりたいドラム募集」としなければいけないのです。
エンジニアの具体的な話で言うと、Scala が書けます、Python が書けます、Ruby が書けますという観点でエンジニアを採用するというのは当然のことです。バンドで言うところのギターかドラムかという話です。サーバーインフラストラクチャーをやるのか、データエンジニアなのか、フロントの JavaScript が書ける人なのか、ミドルウェアに触れる人なのか、モバイルアプリを触るのかなど、どこのポジションをやる人なのかももちろん大事です。
しかし一番大事なのは、何を目指しているかが一致しているかどうかです。それが会社のカルチャーを作っている重要要素になります。スキルセットが合っていること以上に大事なことは、カルチャーに合っているかどうかです。
ロックミュージックがやりたいけれど、ベーシストがいない状態でギタリストが応募してきたとします。ギタリストがすでに2人いて3人目はいらない状態でも、その新しい人が本当にそのバンドの音楽に惚れていたら、同じロックミュージックを奏でたいと思う人だったら、慣れないベースに転向してでもジョインしてくれるかもしれません。それが、スタートアップとしての強さになります。
つまりは一緒にいたいかどうか
それぞれにポジションや得意なこと、スキルセットはもちろんあります。しかしそれ以上に、コアになるカルチャーやビジョンに共感できて「お前と一緒にバンドがやりたい。お前と一緒にライブがしたい」という人をチームに入れることが重要です。そうでないと、音楽性の違いによる解散が待っています。
モーツァルトはすごいですよ、それは。すごい曲を作っているけど、ここには第一バイオリン、第二バイオリンもいないし、指揮者もいません。練習する時間も限られています。人が贅沢にいるわけではなく、ハッカーが数名いるだけです。モーツァルトがいい楽譜を持ってきても演奏できないし、その曲はそもそも Spotify でチャート上位に入っていますか?と今は思うわけです。
ロックバンドに、モーツァルトはいらないのです。