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GPU の消費電力はどれほど大きいのか?

GPU の消費電力についてイメージをしやすく比較してみた。
正確な対比ではないし、そもそも単純な消費電力からの比較であるため、発熱量や効率などについては誤解を生む恐れがある。それでも、今の GPU がどれほどのエネルギーを消費しているのかを感覚的に掴むには、こうした単純化が役に立つと思う。

まず、家庭で使うヒーターの電力を基準に置いてみる。一般的なセラミックヒーターや電気ストーブは、弱運転で約 0.3 キロワット、強運転でおおよそ 1.2 キロワットの電力を使う。この 1.2 キロワットという値を「ヒーター 1 台分の強運転」として目安にする。

家庭の電化製品とサーバー機器を同じ単位で見たとき、スケールの違いがどの程度かが見えてくる。ここでは、その感覚を得るための比較をしてみたい。

消費電力の比較(概算)

対象 消費電力
家庭用ヒーター(強) 約 1.2 kW
サーバーラック(旧来型) 約 10 kW
サーバーラック(AI 対応) 20〜50 kW
NVIDIA H200(サーバー) 約 10.2 kW
次世代 GPU(仮定) 約 14.3 kW

家庭用ヒーターは、一般的な家庭で使用する暖房機器の消費電力を示している。旧来型のサーバーラックは 2010 年代までの標準的な構成で、空冷による運用を前提としていた。一方、AI 対応ラックは液冷や直接冷却を前提に設計され、20〜50 キロワットの電力供給が可能になっている。NVIDIA H200 は現行 GPU サーバーの消費電力であり、次世代 GPU は報道ベースの構成を仮定した試算値である。

次に、GPU サーバーがヒーター何台分の電力を使うかを単純に換算してみる。家庭のイメージに置き換えることで、電力の大きさがより実感しやすくなる。

ヒーター換算(ヒーター 1 台=約 1.2 kW として)

対象 ヒーター台数換算
NVIDIA H200(サーバー) 約 8.5 台分
次世代 GPU(仮定) 約 12 台分

2010 年代まで、データセンターの標準的なラックは 1 台あたり約 10 キロワットの電力供給を想定していた。これは当時の汎用サーバーを空冷で運用できる範囲の上限に近い値である。

一方、AI 処理を前提にした高密度ラックでは事情が変わる。液冷や直接冷却によって効率的な排熱を行う構成では、ラックあたりの電力供給能力が 20〜50 キロワットに達することも珍しくない。この基準を当てはめると、GPU サーバー 1 台で旧来型ラックをほぼ専有し、AI 向けラックでも 1〜3 台しか搭載できない計算になる。

  • NVIDIA H200(現行モデル)

    • チップ単位:最大 0.7 kW
    • サーバー単位(8 枚構成 + NVSwitch):約 10.2 kW
    • ヒーター強運転 約 8.5 台分
    • 旧来型ラックを 1 台で満たす規模
    • AI 対応ラックなら 2〜4 台程度搭載可能
  • 次世代 GPU(仮定)

    • チップ単位:約 1.0 kW(報道ベースの推定値)
    • サーバー単位(8 枚構成 + NVSwitch 想定):約 14.3 kW
    • ヒーター強運転 約 12 台分
    • 旧来型ラックでは収まらない規模
    • AI 対応ラックで 1〜3 台程度の想定

こうして見てみると、家庭用ヒーターと GPU サーバーの電力差は直感的に理解できる。GPU はもはや単なる電子機器ではなく、電力インフラの構成要素に近い存在になっている。

家庭でヒーターを 10 台同時に動かすことを想像してみると、GPU サーバー 1 台の重さが実感できる。AI モデルの性能が向上するほど、必要な電力は急増しており、データセンターの設計は電力供給と冷却技術を中心に再構築されつつある。
計算能力を高めるということは、同時に電力をどう扱うかという新しい課題を突きつけており、GPU の進化はエネルギー産業との境界をさらに曖昧にしている。

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半導体が信用を支える計算能力本位制経済の時代

かつて、経済の裏付けは「金(きん)」だった。
金本位制のもとで、通貨は実物資産によって支えられていた。金という実体の希少性が、そのまま国家の信用であり、通貨の価値だった。そんな時代もあったわけだ。

実体を伴わない経済拡大を経て、いまの世界では、「計算能力」がかつての金に相当するポジションを奪いつつある。

AI があらゆる経済活動の基盤になり、すべての産業がモデルによって回され、すべての判断が演算によってなされていく社会。そこで価値を生むものは、労働力ではなく、計算資源そのものになる。

計算資源とは何か。それは物理的な意味での電力であり、計算装置であり、冷却設備であり、制度としてのアクセス権であり、そして何より、半導体である。

今後の世界では、「どれだけ計算できるか」が国家の信用を決定する。計算能力の総量がそのまま経済力になる社会と言える。
半導体の設計能力、製造能力、そしてそれを稼働させるためのエネルギーとインフラ。それらを自前で持っている国は、自らの通貨の裏付けとして「計算能力」資源を提示できるようになる。

これはつまり、計算能力本位制経済への移行だ。

国家が自国通貨の価値を示すとき、かつては金の備蓄を示した。これからは、GPGPU の総保有量や、AI モデルを育てられるだけの計算インフラや、質の高いデータ量を示すようになるかもしれない。
「この国には十分な計算能力資源があるので、通貨も安定しています」と言える世界だ。計算能力というものは、もはや軍事力の概念をも塗り替えたのかもしれない。

計算能力資源は、目に見えない。そして、その価値は動的に変化する。電力価格、冷却効率、ソフトウェア最適化、アルゴリズムの効率、データの質。
それらすべてが通貨の裏付けに影響するという意味で、極めてリアルタイムな経済基盤になる。人間では判定不可能なほどの動的な世界だ。まさに、AI と AI によるミュニケーションが前提になるし、だからこそ、そこに参加できない(=計算能力資源を持たない)国家は終焉を迎える。

これまで経済は「実体のない信用」によって回っていた。だが、AI の時代には、「実行できる計算の総量」が最終的な信用になる。
そしてその信用の核にあるのが、国家がどれだけの計算能力資源を自国に持ち、統治できているかという事実だ。

半導体も、電力も、データも、単なる産業構造の一分ではない。通貨と主権の根本に関わる、経済構造及び国家安全保障そのものだ。
次の時代の基軸通貨を握るのは、それを支えられる国だ。

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新しい資源戦争の構造分析

AI の時代において、最も価値を持つ資源は何だろうか。それを考えたとき、真っ先に浮かぶのは「GPU」と「データ」だ。

一方で、それらが資源であること自体は、もはや常識になりつつある。問題は、それらがどのような性質を持つ資源なのか、ということだ。

産業革命の時代、石油は国家を動かす資源だった。工業生産を支え、移動手段を支え、戦争の行方すら決定づけた。石油を制する者が世界を制する、と言われた時代だった。

現代の GPU は、当時の石油に似ている。生成 AI を動かし、軍事技術を支え、情報戦の最前線に立つ。計算資源を持っているかどうかが、そのまま国家戦略の成否を分ける。

この視点については、「国家を揺るがす計算資源とエネルギー資源の地政学」でも書いた。

しかし、ChatGPT の登場、そして DeepSeek の出現によって、事態は少し複雑になってきた。もはや「大量の GPU とデータ」が絶対条件ではなくなりつつある。モデル設計と学習戦略によっては、限られた計算資源でも、十分に破壊的な成果が出せることが証明されてしまった。

つまり、石油に似ていたはずの GPU は、実は「通貨」にも似てきている。

量だけではない。どこで、どのタイミングで、誰がどう使うか。その流動性と配置戦略が、成果を左右する。蓄積するだけでは無意味で、流通と活用の設計が価値を生む。

これを受けて、今後の資源戦争は二層構造になると考えている。

ひとつは、従来型の石油戦争に似た構造だ。国家間で GPU を囲い込み、サプライチェーンを独占し、計算資源を通貨のように扱う。

もうひとつは、より柔軟で動的な通貨戦争に似た構造だ。モデル設計、データ設計、チップアーキテクチャ最適化──限られた資源の中で、どこまで成果を引き出せるかを競う。

DeepSeek が示したのは、まさに後者の可能性だ。最先端 GPU にアクセスできない環境下で、ソフトウェアと人的資源の最適化によって、既存のトップモデルに迫る性能を引き出した。

つまり、これからの時代は、ただ計算資源を持つだけでは意味がない。限られた資源を魔改造し、独自最適化し、局所的に最大効率を引き出す戦略が不可欠になる。

「誰が一番持っているか」ではない。「誰が一番うまく使いこなせるか」が、勝負を決める時代だ。

これが、AI 時代における新しい資源戦争の構造だと思う。

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国家を揺るがす計算資源とエネルギー資源の地政学

もし、AI が世界の構造を変えるとしたら、どこから始まるだろうか。
それを考えるために、まずは「計算資源」と「エネルギー資源」の再定義から考えてみたい。

かつて、原子力は国家戦略そのものだった。それは、兵器であり、電力であり、外交カードでもあった。
そして今、AI の時代においては、それと同じレベルで「計算資源(GPU)」や「エネルギー資源(電力)」が意味を持ち始めている。

AI を動かすには、GPU と電力が必要だ。それも、とんでもない量が必要になる。
そして結果として生み出される AI が、経済や安全保障に及ぼす影響力の大きさを考えたならば、その資源の奪い合いが起こるのは当然と考えられる。

例えば、先端半導体において市場を事実上独占しているアメリカは、その半導体供給を制限することで、中国の AI 発展を間接的に封じ込めようとしている。ファーウェイへの制裁はその象徴だったし、今に至っても続いている TSMC の囲い込みもそうだ。
一方で、中国はどう動いたか。先端 GPU を諦め、低性能なチップを“物量と電力”でカバーする道を選んだ。環境負荷を無視してでも、AI モデルを回すための電力を手に入れ、動かし切るという方針だ。
物量においても、パラダイムシフトを起こしている。世代遅れのチップしか手に入らない状況に対応するため、大量の人的資源を投下し、あらゆるレイヤーのソフトウェアを最適化することで、無駄を排し、圧倒的な効率を得られる方法を模索した。

すでに現代の社会では、計算資源とエネルギー資源を“兵器”として再定義する段階に入っている。AI を育てるという行為が、情報戦であり、通貨戦略であり、インフラの支配そのものにつながる。

だから国家としては、エネルギー政策を環境保護のフレームで語っている余裕はないのが実情なのだろう。2025年初頭のアメリカがまさにそう見える。「今ある電気をすべて、AI に使わせてくれ」──これが、国家規模での本音なのだろう。

原子力と同様、AI は「不可逆」な技術だ。一度回り始めた演算モデルは、止めるわけにはいかない。そのためにエネルギーが必要で、冷却が必要で、インフラが必要になる。

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計算能力資源を得るための一次資源としての GPU

資源が戦略になる時代というのは、いつも後から振り返って意味が見えてくる。

石油の時代がそうだった。エネルギー資源を生み出すための一次資源としての、石油だ。19世紀末には灯りを灯すだけのものだった油が、20世紀を通して国家の命運を分ける存在になっていった。

今、似たようなことが計算能力資源にも起きつつある。
これまで抽象的な単位であった計算能力資源が、GPU という単位になり、市場取引の対象になった。

生成 AI を動かすには、GPU が必要だ。しかも、ただの GPU ではなく、高速なメモリ帯域と並列演算性能を持つものが、2025年初頭の段階では必要になっている。生成 AI 市場における GPU は最重要インフラの一部であり、資源であり、通貨である。それも人間を超越した存在と価値を共通認識できる、数少ない資源であり、通貨だ。

生成 AI 市場が拡大し、市場全体の中で割合を増すごとに、誰がその資源をどれだけ握っているかが重要視される。それは、そのまま経済圏の分布や、プロトコルの主導権や、社会制御の可視範囲を決定することに繋がる。

しかし、GPU の価値はただの所有では決まらないという点はおもしろい。ここも、石油に似ている。GPU は結局、電力がなければ動かないし、冷却ができなければ密度を上げられない。最適なソフトウェアがなければ、せっかくの資源も活かしきれない。

つまり、GPU の時代には、「資源を持っている」だけではなく、「資源を回せる構造を持っているか」が問われる。石油が産地と消費地の間で政治的な緊張を生んだように、GPU もまた、地理と権力の構造に組み込まれている。

この時代に生きる自分たちが、そこにどう関わっていくかを考えるとき、「どこに GPU があるか」よりも、「どうやって GPU を社会の中に埋め込むか」に焦点を当てるべきだと思っている。

都市の中に、地域の産業の中に、教育の現場の中に、GPU をどう流通させるか。AI インフラがクラウドの中だけにあるのではなく、地域の中で自律的に使われるようにするにはどうすればいいか。
その問いに向き合う時代が、もう始まっている。

もうひとつ追記すれば、GPU(GPGPU)は現在この瞬間の単位であり一次資源に過ぎず、そこも石油に似ていると思う。結果として得たいものが計算能力資源である限り、今後は GPU 以外の半導体資源の急速な成長は間違いない。サステナビリティーはここでも鍵だと思う。

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