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雑記

大企業の信用を無力化する嘘をつかないインフラ

製造業で「検査データの改ざん」が報じられるたびに思うのは、あれは一部企業の不正というより、社会構造全体の問題だということだ。

嘘をつかざるを得ない環境。嘘をついた方が得になる仕組み。そうした構造がある限り、不正は個人や組織の倫理ではなく、システムの問題として捉えるべきだと思っている。
だからこそ、技術的に「嘘をつかなくて済む仕組み」が登場したときには、ためらわずに使うべきだ。

大企業が提供する製品やサービスが高くても売れるのは、信頼があるからだ。品質や実績もさることながら、過去の取引履歴や顧客からの評価といった無形の信用が価格を支えている。
だが一度でもその信用が傷つけば、価格優位性は簡単に崩れる。そして、その影響はサプライチェーンを通じて連鎖的に広がる。社歴が長いほど、巻き込む範囲も深刻になる。

一方、ベンチャー企業は価格で勝負することが多い。実績がない代わりに、価格を下げて信頼を積み上げていくやり方だ。今まではそれが唯一の道だった。
でも今は違う。たとえば製造プロセスや検査結果をリアルタイムで記録し、改ざん不能な形で蓄積する仕組みがあればどうか。それがあるだけで、「嘘をついていない」という事実を客観的に証明できる。
つまり信頼の構築が、時間依存ではなくなる。積み上げ型の信頼から、仕組みによる信頼へと変わるのだ。

だから、これからモノづくりに挑む企業は、創業初期から以下の視点を持っておいた方がいい。

品質や検査データの改ざんが不可能であることを証明できる履歴を残しておくこと。大手企業で過去の改ざんが明るみに出た瞬間に、その透明性が逆転の武器になる。しかも、その履歴の価値は時間とともに上がっていく。だからこそ、「今すぐに始めること」が重要になる。
価格以外の競争力、つまり「信用という資産」を蓄えるために、データを可視化すること。これは後からでは絶対に手に入らない。

そして、すでに信用を持っている大企業にとっても、この構造変化は他人事ではない。
信頼されているからこそ高価格で勝負できるが、その信頼はひとつの不祥事で崩れる。しかも、歴史が長いほど不祥事の影響範囲は広がる。連結する企業の数だけ、不信の拡散速度は加速度的に増していく。
だから、いま必要なのは「嘘をつけない環境」そのものだ。リアルタイム監査による検査データの保証、サプライチェーン全体での透明性確保。そういった仕組みが導入されていれば、たとえ問題が起きても早期に発見し、影響範囲を最小限にとどめられる。
これはリスクヘッジであると同時に、現場の心理的安全性にもつながる。嘘をつく必要がなければ、現場は正直に仕事ができる。失敗があっても隠さず開示できる。開示されれば改善できる。

つまり、これは「不正を防ぐ」仕組みではなく、「信頼を育てる」仕組みだ。
その履歴があれば、将来にわたって企業は不正をしていないことを証明できるし、社会はそれをもとに取引先を選ぶようになる。データが資産になる時代において、「改ざん不能な履歴」ほど強力な証拠はない。

そして、その履歴は今すぐにしか積み上げられない。明日からでは遅い。
履歴があるということは、嘘をつく必要がなかったことの証明であり、誠実さの記録であり、未来の競争力だ。

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