ガンダムが描いた逆説的な未来
戦争と技術開発の進化は、しばしば似た軌道をたどってきた。剣や弓を手にした“士”の時代から、機関銃へ、そして大量殺戮兵器へと。1対1の近接戦闘から、1対nの長距離戦闘へ。拠点を離れて制圧するというロジックが、近代以降の戦争の主流となった。
その流れに対する逆説が、アニメ『機動戦士ガンダム』に描かれている。高機動・長距離戦闘が常識となった未来で、再び個人の技量と接近戦が戦局を決定する。機械の鎧をまとった“士”たちが、1対1の決闘を繰り広げる世界。ガンダムは、戦争が原始に戻る未来を描いていた。
サイバー空間における“直接戦闘”の再来
この構図は現実にも重なる部分がある。近年の戦争や産業競争では、ソフトウェアと情報のスケーラビリティが支配的だった。だが今、国家は物理層への攻撃に戦略を転じている。ネットワークの分断、ハードウェア供給網の遮断。クラウドや AI が依拠するインフラそのものを破壊しようとする動きが始まっている。
ソフトウェアを無力化するために、電力や半導体といった“下層”を狙う動きが加速している。その結果、戦いは再び物理的な“直接戦闘”へと回帰しつつある。優位に立つために、OS、ミドルウェア、開発言語をハードウェアに最適化し、演算効率やセキュリティ性能を極限まで高める。サイバー空間における“刀と盾”の開発競争が、いま再熱し始めた。
AI 戦争にも忘れられた“士”が必要だ
AI 開発も例外ではない。クラウド、LLM、API──そうした上層の技術が注目を集める一方で、真に差がつくのはハードウェアとの統合設計にある。分散処理、冷却技術、電力効率、ハードウェアセキュリティ。下層レイヤーを理解し、制御できる人材は、まさに現代の“士”といえる。
しかしそのような戦い方は、「シリコンバレー世代」のエンジニア教育では継承されていない。アプリと UI を作る力には投資が集まっても、OS のコア開発能力や回路図を読む力には注目が集まらない。だが現実には、物理レイヤーに足を踏み入れた者だけが、AI 戦争やサイバー戦争の本質に辿り着くことができる。
