なぜ Skype があれほどまでに画期的だったのか、あらためて思い出しておきたい。
まず、通話が無料だった。
それまで国際通話は高価だったが、Skype はほとんど遅延もなく、クリアな音声で無料通話ができた。今となっては当たり前のことだが、当時としては衝撃的だった。
それが実現できたのは、P2P 通信を採用していたからだ。
通信コストを抑え、検閲を回避し、チャットやファイル共有を含む多様なやりとりを可能にした。副次的に遅延も少なく、通信品質も高かった。
すべての通信が P2P だったわけではないし、技術的には未成熟な部分も多かった。認証や暗号化の設計には改善の余地があり、セキュリティ面での脆弱性も存在したとは思う。
それでも、「それで動いた」ことが重要だった。実際に使われ、ネットワーク効果によって一気に広がったという事実は、情報通信技術の発展が人類社会をいかに変化させる力を持っているかを証明していた。
Skype はやがて Microsoft に買収され、設計も変わっていった。P2P の特異性は徐々に失われ、クラウドベースのサービスとして現在の形に落ち着いた。セキュリティや互換性、企業向けの要件などを考えれば当然の進化ではあるが、それと引き換えに、Skype が Skype だった本質も失われていった。
プロダクトが成長し、破壊的な技術がビジネスに組み込まれていく過程で、どこでどんな妥協が生まれたのか。Skype はそのプロセスをリアルタイムで見せてくれた、数少ない事例のひとつだったと思う。
「今は誰も使ってない」「Teams に統合される」といった話は本質的ではない。Skype に関して言えば、とっくに P2P をやめていたわけだけど、それでもかつて P2P 通信の代表例だったものが、情報通信の歴史から消えていくという事実には、不安を覚える。
それでも思うのは、インターネットの破壊的な技術はなぜかユーロ圏から生まれやすいということだ。興味深い。
