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雑記

半導体活用の先にあるもの

ムーアの法則は生きている、という話と、その先にある技術インフラの方向性の話です。

ムーアの法則

まず、ムーアの法則を振り返っておきます。これは、伝説の Intel 創業メンバーのひとり、Gordon Moore が発表した法則です。

雑な要約として、半導体の集積度は18か月ごとに倍になる、という表現があります。転じて、同じ価格でも性能が倍になる、というような解釈がされています。

これについて、近年の高精度化に伴い、物理的な限界がきて、法則が崩壊すると言われて何年も経ちます。しかし、本質的な部分ではこの進化はまだ有効に続いており、法則は破られていないという解釈がされています。

ユーザー側から見たら、高性能化も低価格化もしていないように見えるため、高精度化の恩恵を授かっていないように感じるのですが、様々な工夫を凝らし、市場のニーズに合わせて進化は止まらず進んでいます。

モバイル市場の開花とその対策

半導体の活用事例として主だったものは、間違いなくコンピューターでした。パソコンです。そのモバイル化と、さらに言えばスマートフォンに代表される完全なモバイル端末の登場と浸透が、ひとつの大きなトレンドとなり、半導体の開発方針にも大きな変化を与えていました。

半導体の性能自体は向上するとともに、法則通り効率化され、消費電力は下がっているのですが、モバイル化に伴い大きな変化が発生しました。それは、消費電力の壁です。

無尽蔵に電力を使ってでも性能を上げていた時代と違って、いかに低消費電力で性能を高めるかという戦いに転じました。つまり、バッテリーの容量に限界があるため、半導体の性能は必然的に頭打ちになるのです。
集積度が上がって、体感として安くはなっても、早くはならなかった主な原因はこれです。

対策として、メーカー側はバッテリーを増やすことにしました。Apple や SAMSUNG のように、半導体もハードも自社で開発している企業は、その選択肢が取れました。大画面が良いよねと消費者に訴えかけつつ、端末を大きくしていくことでバッテリーを増やすことがメーカーの戦略でした。
実際、ユーザーも速さや持ちやすさよりも、バッテリー効率を重視する傾向にあります。モバイルバッテリーの普及を見れば一目瞭然です。

また、速さの方は、クラウドで補えるようになってきました。回線速度がボトルネックとなりますが、計算を外部で行うことで大抵の処理は事足りるようになってきました。

再び計算速度の時代へ

ここから先のテクノロジーのロードマップを見渡すと、機械学習のような AI テクノロジーや、プライバシー保護(暗号化)、VR/AR、それにブロックチェーンのような、端末側での計算処理が求められる傾向にあります。
クラウドと 5G で大半の処理は高速化するものの、上に挙げたテクノロジーの利用には端末側での処理が欠かせません。しかもプライバシーを重視するいまの時世の中では、ローカルでの計算や計算結果の保護も重要な課題となります。機械学習で取り扱うデータは多くの場合デリケートであるため、AI の有効活用にはネットワークと切り離された計算能力は必然なのです。

この解決に向けての可能性が、ダークリシリコンにあります。ダークシリコンとは、搭載していても、動かさない半導体のことです。

こういうことです。

  • ドメインスペシフィックな半導体(担当する処理を限定してその処理に特化した半導体)を設置する
  • 普段は動かさない
  • 半導体の集積度は高く使えば計算能力は高い
  • 最近のモバイル端末は大型化してスペースはあるためたくさん積んでおける
  • 機械学習など特定用途が発生した時にだけその半導体を活用する
  • 必要な時だけ動かすため消費電力効率よく計算を実現できる

つまり、汎用的な半導体が担ってきたこれまでと異なり、半導体はその役割を分散化していくのです。サーバーサイドとローカルという分散化以外に、ローカル内での分散化もこのように進むのです。そして結果として、データの保持や計算結果の保持も、分散化して行きます。

そして発展としては、機械学習を充電中にだけやっているように、ダークシリコンを充電時だけマイニングに充てるなど、そういう可能性もあります。勝手な妄想にもうだいぶ入っていますが。

今後は CPU や GPU に限らず、搭載される半導体の特性を把握して、低レイヤーの開発ができる組織・企業が優位に立つでしょう。ただしおそらくダークシリコンがダークである由縁は公式には OS 経由でいじれないという部分であるため、サードパーティーには活用が難しい現実があります。その辺り、端末提供会社の方針に依存してしまうため、思い切ったイノベーションは期待できません。
ハードメーカではないしかもサードバーティーのスタートアップとしては、今は計算能力の分散化に貢献できるようなソフトウェアの開発や、データの保全や認証、秘匿を実現する技術の開発という部分ぐらいしか、できそうなことは想像できません。実際にエコシステムが動き始めるのは、まだ少し先になりそうです。

ここまでで読み解ける一つの現実は、モバイル端末は巨大化を続けるということです。バッテリーのイノベーションが無い限り、次のリープはありません。
ただ、バッテリーのリープが間も無く起こる可能性と、それに伴った領域ごとに特化した半導体の搭載が前提となる未来を十分に考えて、将来設計をすべきと思います。そのモチベーションが高い大手企業が多いことは、大手の端末に搭載されている半導体構成の傾向を見れば、間違いありません。

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